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大阪高等裁判所 平成7年(行コ)29号 判決 1996年3月29日

大阪市平野区流町三丁目一一番一八号

控訴人(附帯被控訴人、以下「控訴人」という。)

桧建設株式会社

右代表者代表取締役

桝本秀美

右訴訟代理人弁護士

水野武夫

大阪市平野区平野西二丁目二番二号

被控訴人(附帯控訴人、以下「被控訴人」という。)

東住吉税務署長

竜神仁資

右指定代理人

中村好春

亀井幸弘

高橋孝志

坂田和規

主文

一  被控訴人の附帯控訴に基づき、原判決を次のとおり変更する。

被控訴人が昭和五三年三月三一日付けで控訴人の昭和四九年六月一日から昭和五〇年五月三一日までの事業年度の法人税についてした更正及び重加算税賦課決定処分のうち、所得金額六四三一万一〇〇〇円、法人税額二六七三万二〇〇〇円、重加算税七五六万一二〇〇円を超える部分を取り消す。

二  控訴人の本件控訴を棄却する。

三  控訴費用は、第一、二審とも控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を次のとおり変更する。

被控訴人が昭和五三年三月三一日付けで控訴人の昭和四八年六月一日から昭和四九年五月三一日までの事業年度(以下「昭和四九年五月期」という。)の法人税についてした更正決定のうち、所得金額四四一万七〇〇〇円、法人税額一二八万五六〇〇円を超える部分及び重加算税賦課決定を取り消す。

被控訴人が昭和五三年三月三一日付けで控訴人の昭和四九年六月一日から昭和五〇年五月三一日までの事業年度(以下「昭和五〇年五月期」という。)の法人税についてした更正決定のうち、所得金額四四八万九〇〇〇円、法人税額一五二万七五〇〇円を超える部分及び重加算税賦課決定を取り消す。

被控訴人が昭和五三年三月三一日付けで控訴人の昭和五〇年六月一日から昭和五一年五月三一日までの事業年度(以下「昭和五一年五月期」という。)の法人税についてした更正決定のうち、所得金額一六四八万二〇〇〇円、法人税額六六四万八二〇〇円を超える部分及び重加算税賦課決定を取り消す。

被控訴人が控訴人に対し、昭和五三年三月三一日付けでした昭和四九年五月期以降の事業年度の法人税についての青色申告承認取消処分を取り消す。

2  被控訴人の附帯控訴を棄却する。

3  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文同旨

第二事案の概要

事案の概要は、次のとおり付加するほか、原判決の「事実及び理由」中の「第二 事案の概要」記載のとおりであるから、これを引用する。

1  同三一頁一〇行目の次に行を改めて、次のとおり付加する。

「控訴人とミズホ開発及び瑞穂観光(以下「ミズホ開発ら」という。)との取引形態が、ミズホ開発らが土地を出資し、控訴人がその上に建物を建てて販売し、その利益を分配するとの一種の組合契約類似のものであったとしても、控訴人の利益分配金は、土地建物が一体として他に売買されたことにより生ずるものであり、最終的な販売総額が明らかになった時点で具体的な分配金額が決定されることからも、ミズホ開発らに支払われる分配金は、土地の取得費及び転売利益等を含むものであり、実質的には土地代金に相当するものとみられるから、控訴人の所得金額を財産増減法により算出するには、控訴人がミズホ開発らから土地を仕入れて販売したものとして、売掛金、買掛金、土地棚卸高の各勘定科目を設定して、各事業年度の期首、期末の資産負債の増減として捉えるのが実態に則した合理的な計算方法である。

なお、ミズホ開発らは、長吉出戸の土地について控訴人から一億五九一〇万円を取得している。もっとも、控訴人からミズホ開発に対して昭和五〇年九月三〇日付けで長吉出戸の土地代金として二九〇万円が支払われ、ミズホ開発としては、これを福田の土地の土地代金に充当しているが、これは、ミズホ開発の内部における経理処理にすぎないから、控訴人がミズホ開発らに支払うべき土地の販売代金が一億五九一〇万円であったことには変わりがない。

また、ミズホ開発の福田の土地についての取得分は、ミズホ開発の経理処理の上で仮受金とされている金員と未収入金の減額分とされている金員の合計である八八三一万円である。」

2  同三三頁四行目の次に行を改めて、次のとおり付加する。

「すなわち、被控訴人の算出方法によれば、控訴人に帰属する預金について、これが控訴人代表者桝本個人の名義である場合には、桝本個人の財産であるとしてその増減が計算され、桝本個人に帰属する預金であっても、控訴人名義や架空名義である場合には、この利息収入は控訴人に帰属するものとして計算されることとなるが、真実と異なる事実を前提とするものであり、不合理である。」

3  同三四頁六行目の次に行を改めて、次のとおり付加する。

「また、福田の土地及び長吉出戸の土地に関する控訴人とミズホ開発らとの契約が、ミズホ開発らが土地を出資し、控訴人がその上に建物を建てて販売し、その利益を分配するとの一種の組合契約類似の関係にあったとしても、控訴人は、ミズホ開発らから土地の所有権移転を受けたものではないから、控訴人がミズホ開発らから土地を仕入れ、これを販売したとの前提で、被控訴人が右販売代金の未収分を売掛金、土地代金の未払額を買掛金、未分譲の分を土地棚卸高との勘定科目を設定して処理しているのは、実態とかけ離れており、明らかに誤りであって相当ではない。特に、建売住宅の販売代金は控訴人のみではなく、ミズホ開発らが直接収受したものも多いのであるから、妥当を欠くのである。右控訴人とミズホ開発との契約関係に則した処理をするとすれば、販売代金の未収分のうち建物部分に相当するものを売掛金として計上するのが相当である。

仮に、被控訴人の処理に従ったとしても、ミズホ開発が福田の土地を取得するために支払った土地代金及び当期費用等の経費の合計額は七六六二万六三三〇円であり、建売住宅の売上の一〇パーセントの利益分として控訴人から取得すべき金額は二〇九八万円であって、ミズホ開発が控訴人から受け取るべき金額は右の合計九七六〇万六三三〇円であるから、右金員をもって控訴人のミズホ開発からの福田の土地の仕入代金とすべきである。なお、控訴人からミズホ開発に昭和五〇年九月三〇日付けで支払われた二九〇万円は、長吉出戸の土地についての入金から福田の土地の代金に振り替えられたものであって、福田の土地の代金として充当されたものであるから、長吉出戸の土地についてのミズホ開発らの取り分は一億五九一〇万円から右二九〇万円を差し引いた一億五六二〇万円である。また、ミズホ開発の帳簿上、福田の土地に関する同日付けの未収入金残金六三九万六三三〇円が残存しており、これが控訴人からミズホ開発に支払われていないとしても、未収入金として計上されている以上、右福田の土地仕入代金に含まれるものとして処理すべきである。」

4  同三九頁三行目の次に行を改めて、次のとおり付加する。

「八 昭和五〇年五月期における所得金額の算定に当たって損金として算入する未納事業税の計算についての被控訴人の主張

1 法人税法では、各事業年度の所得の金額の計算に当り、損金の額に算入する費用は、原則として期末までに債務の確定しているものに限られる(法人税法二二条三項)。そのうち、事業税については、未納事業税についてもその申告時または更正及び決定のあった時に債務が確定する。

しかし、課税実務においては、連続した二期以上の法人税について所得金額を更正等する場合には、その直前期の事業年度の所得金額を基に事業税の額を見積もり、これを損金の額に算入することとしている(法人税基本通達9-5-2)。この場合の事業税は、申告、更正、決定によって債務が確定しているわけではないが、事業税は、原則として法人税上の所得金額をその課税標準とする(地方税法七二条の一四第一項)のであり、法人税の更正または決定等に連動してその課税が修正される事情にあることから、法人の担税力等を考慮して、納付すべき事業税の額を見積もり、これを損金の額に算入すると定めたのである。

2 本件においては、昭和五〇年五月期と昭和五一年五月期の連続した二期以上の事業年度分の法人税について所得金額を更正したものであるから、右各事業年度の直前期である昭和四九年五月期の所得金額を基に見積もった金額が未納事業税として各事業年度末の負債等の有高に加算されることとなる。

本件において、控訴人の昭和四九年五月期の事業年度において、買掛金のうち東門平蔵に対する分が五四〇万円の限度でのみ認められるものとして、控訴人の昭和五〇年五月期について、未納事業税額を計算すれば、所得金額が六四三一万一〇〇〇円、法人税額が二六七三万二〇〇〇円、重加算税額が七五六万一二〇〇円となる。したがって、被控訴人のした更正及び重加算税賦課決定処分のうち、これを超える部分が取り消されるべきこととなる。

九 被控訴人の未納事業税の計算についての主張に対する控訴人の反論

1 被控訴人の引用する法人税基本通達9-5-2によれば、「当該事業年度の直前の事業年度分の事業税の額については、9-5-1にかかわらず、当該事業年度終了の日までにその全部または一部につき申告、更正又は決定がされていない場合であっても、当該事業年度の損金の額に算入することができるものとする。」とされている。

これによれば、当該事業年度終了の日までに、直前年度の事業税の更正等がされていない場合であっても、その年度の損金に算入することとしているが、これは、当該事業年度で損金に算入すべき事業税の額については更正等がされていなくとも、客観的には明らかであるから、費用収益対応の原則に従い、その全部または一部につき更正等がされていなくても損金に算入することとされているのである。

2 被控訴人は、右基本通達の規定は、連続した二期以上の事業年度分の法人税について所得金額を更正等する場合にのみ適用されるとするが、これは右通達の範囲を超える解釈である。」

第三判断

一  当裁判所は、控訴人の被控訴人に対する本訴請求は主文第一項の限度で理由があるから認容すべきであるが、その余は理由がないから棄却すべきであると判断するが、その理由は、次のとおり付加、訂正するほか、原判決の「事実及び理由」中の「第三 当裁判所の判断」記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決添付別紙四、五を別紙四、五と差し替える。

2  原判決五一頁九行目の「このような計算方法には」とあるのを「このような計算方法は、真実と異なる事実を前提とするものであり」と改める。

3  同五二頁五行目の「認められるところ、」の次に、次のとおり付加する。

「前記のとおり、査察調査によって把握された預金には桝本個人と控訴人の預金が混在しているが、他の第三者の預金が混在していることはなく、桝本は控訴人から支給される給料、家賃及び預金等の受取利息以外には収入はないのであって、」

4  同五六頁五行目の「交わされ、その旨の清算がなされた。」とあるのを、次のとおり改める。

「交わされたが、実際には、ミズホ開発及び瑞穂観光の取り分は一億五九一〇万円であり、右覚書との差額の二九〇万円は、ミズホ開発の帳簿上、福田の土地の代金の入金として処理された(甲一一号証の一四、一八枚目)。」

5  同六五頁五行目の「存在しないから、」の次に、次のとおり付加する。

「実態とかけ離れており、また、建売住宅の販売代金はミズホ開発が直接収受したものも多いから相当ではなく、販売代金の未収分のうち建物部分に相当するものを売掛金として計上すべきであって、」

6  同六五頁八行目の「実体からは離れるものの、」の次に、次のとおり付加する。

「前記認定によれば、控訴人からミズホ開発に支払われる利益分配金は、最終的な販売額に基づいて決定されるのであり、土地の取得費及び転売利益を含むものであるら、ミズホ開発の取引銀行においてローンを組んだ顧客の分についてその販売代金をミズホ開発が収受していたとしても、控訴人がミズホ開発から土地を仕入れて販売したものとして右のような勘定科目を設定して」

7  同六五頁末行の次に行を改めて、次のとおり付加する。

「(五) 控訴人は、福田の土地についてミズホ開発が控訴人から受領すべき金員は土地代金及び登記費用等の経費と売上の一〇パーセントの合計である九七六〇万六三三〇円であると主張する。しかし、証拠(乙一〇六号証、五二三号証)によれば、控訴人がミズホ開発に支払った金員は前記のとおり八八三一万円であったことが認められるから、控訴人の右主張事実を認めることはできない。

控訴人は、ミズホ開発が昭和五〇年九月三〇日付けで控訴人からの入金処理をした二九〇万円は、長吉出戸の土地についての入金を福田の土地についての代金に振り替え充当されているから、福田の土地についての取り分として計算すべきであり、長吉出戸の土地についてのミズホ開発の取り分は一億五六二〇万円である旨の主張をする。しかし、証拠(甲一〇号証、一一号証、乙一〇六号証、五二三号証)によれば、長吉出戸の土地についてのミズホ開発の取り分は前期のとおり一億五九一〇万円であって、そのうち、二九〇万円については、ミズホ開発の内部の経理処理として福田の土地の代金として振り替え処理をしたものであることが認められるから、控訴人の右主張事実を認めることはできない。

控訴人は、ミズホ開発の帳簿上、福田の土地についての取り分として六三九万六三三〇円が未収金として計上されているから、これも福田の土地の仕入れ代金とみなすべきであると主張するが、右帳簿上の記載のみから、福田の土地について控訴人がミズホ開発に支払った代金が八八三一万円であったとの前記認定を左右することはできず、右六三九万六三三〇円を福田の土地の仕入れ代金として計上すべきであるということもできない。」

8  同九七頁四行目から九八頁一〇行目までを次のとおり改める。

「(二) 昭和五〇年五月期(別表五)

(1) 同表中番号25(買掛金)の

期首現在高が二七三六万五八九六円に

増減額が△四七七万三一八三円に

(2) 番号39(負債等の有高計の増減額)が一四一〇六万七九五二円に

(3) 番号40(差引所得金額)が六四三一万一一九三円に

(三) 昭和五一年五月期(別表六)

(1) 番号39(未納事業税)の

期末現在高が一三九三万九九五〇円に

増減額が七一〇万三三一〇円に

(2) 番号40(負債等の有高計の増減額)が△二八五九万一三〇四円に

(3) 番号41(差引所得金額)が一〇八二九万五四七一円に

そして、右の各差引所得額に対する税額は別紙五の<2>記載のとおりである(法六六条、昭和四九年法一六号)。

なお、連続した二期以上の法人税について所得金額等を更正する場合には、その所得金額の算定に当たって損金として算入する未納事業税はその直前期の事業年度の所得金額を基にその税額を見積もり、これを損金として算入することとされているところ(法人税基本通達9-5-2、乙七〇三号証)、本件においては、昭和五〇年五月期と昭和五一年五月期の連続した二期以上の事業年度分の法人税について所得金額を更正したものであるから、その直前の事業年度である昭和四九年五月期の更正処分による所得金額である六三七四万〇六一四円に基づいて計算すべきである。

控訴人は、右基本通達によれば、当該事業年度で損金に算入すべき未収事業税の額については、更正等がされていなくとも損金に算入するとされているのであり、連続した二期以上の事業年度分の法人税の所得金額の更正の場合には、その直前の所得金額に基づいて未納事業税を計算するとの趣旨の通達ではない旨主張するが、事業税の課税標準が法人税法上の所得金額とされている(地方税法七二条の一四第一項)趣旨と前記通達の趣旨からすれば、控訴人の右主張は理由がない。」

9  同一〇五頁九行目から一〇行目にかけての「所得金額六四二五万三〇〇〇円」とあるのを「所得金額六四三一万一〇〇〇円」、同一〇行目の「法人税額計二六七〇万七九〇〇円」とあるのを「法人税額計二六七三万二〇〇〇円」とそれぞれ改める。

10  同一〇六頁一一行目の「しかし、」から同一〇七頁五行目までを次のとおり改める。

「しかし、昭和五〇年五月期については、確定申告により納付の確定した税額は一五二万七五〇〇円であり、差引納付すべき法人税額は二五二〇万四五〇〇円となるところ、重加算税は七五六万一二〇〇円となり、賦課決定処分のうち七五六万一二〇〇円を超える部分は違法である。

(算定式)

2673万2000円-152万7500円=2520万4500円

2520万4000円×0.3=756万1200円」

二  よって、控訴人の被控訴人に対する本訴請求は、被控訴人が昭和五三年三月三一日付けで控訴人の昭和四九年六月一日から昭和五〇年五月三一日までの事業年度の法人税についてした更正及び重加算税賦課決定処分のうち、所得金額六四三一万一〇〇〇円、法人税額二六七三万二〇〇〇円、重加算税七五六万一二〇〇円を超える部分を取り消す限度で理由があるから認容すべきであり、その余は理由がなく棄却すべきであるところ、これと一部結論を異にする原判決はその限度で不当であり、本件附帯控訴は理由があるから、被控訴人の附帯控訴に基づき原判決を変更することとし、控訴人の本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行訴法七条、民訴法九五条、九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 福永政彦 裁判官 井土正明 裁判官 赤西芳文)

別紙四

課税留保金額に対する税額の計算

<省略>

別紙五

本件各事業年度に関わる法人税額

<省略>

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